みしょのねこごや

Diary - 2013年7月

「公共の福祉」についての憲法学上の議論(2013年参議院議員選挙によせて)

今回の参議院選挙では,東京都選挙区『すずきかん(民主党)』,比例代表『日本共産党(小池晃)』に投票しました。

参議院選挙なので,政権を争う選挙ではなく,6 年を見通して考えるべきです。そうすると,論点はふたつ。

  • これまでの安倍政権に対する信任投票。
  • (安倍政権が行おうとしている)日本国憲法の改正への賛否。

前者については信任できるのですが,自民党の改正憲法草案があまりにもひどかったので,今回は自民党への反対票を投じました。(自民党へ反対するときに日本共産党しか選択肢がないのは残念なことです。)

僕はとりわけ,「公共の福祉」を「公益または公の秩序」に書き換えることに反発しています。このことについて先日 Facebook 上で議論をして,その結果自分の考えがまとまったので,書き残しておきます。


立憲主義の立場から考えれば,憲法の最大の目的は,国家が『基本的人権』を侵害するのを防ぐことです。憲法は,国民が国家を縛る枷です。

ゆえに,人権はどのような場合に(誰によって)制限されるのか,というのは,憲法学上の大きな問題です。今まで憲法学者が様々な議論を積み重ね,最高裁が様々な判例を出してきました。

当初は,基本的人権は『公共の福祉』によって制約されるとする一元的外在制約説が主流でした。日本国憲法ではいくつかの条文で,『公共の福祉』が人権を制約する,と明文により書かれているからです。ここで『公共の福祉』というのが何なのかというのは,実はあまり重要ではありません。『公共の福祉』は,人権という枠組みとは独立した,人権の外部にあるものであるという説です。

この説への批判として,芦部には次のように書かれています。

この説は,美濃部達吉によって代表される当初の通説であったが,一般に,「公共の福祉」の意味を「公益」とか「公共の安寧秩序」と言うような,抽象的な最高概念として捉えているので,法律による人権制限が容易に肯定されるおそれが少なくなく,ひいては,明治憲法における「法律の留保」のついた人権保障と同じことになってしまわないか,という問題があった。

というわけで,じゃあどう理解すればいいのか,という形で議論がすすめられてきたました。その議論の末に内在的制約説だとか比較衡量の考え方が生まれてきて,現在では二重の基準説が主流です。この辺は憲法学の本を読んでください。

たとえば一元的内在制約説では,それぞれの人権にはそれぞれ異なった「制約の限度」が存在するとします。たとえば,「思想・良心の自由」は,心の中のことなのでよっぽどのことが無い限り制約できないが,その一方で「職業選択の自由」は,たとえば小学校のそばで風俗店を営めない,のようにして制限できる。そして,それぞれの人権を制約する根拠として「公共の福祉」がある。そのような説です。最近開発された二重の基準説は,この説をもうすこし具体的に検討したものです。

芦部の引用部分を見れば分かる通り,憲法改正によって「公共の福祉」を「公益または公の秩序」に書き換えることは,人権制約を一元的外在制約説の解釈に基づいて解釈することを可能にします。とりわけ僕が恐れているのは,本改正行為が改正後の解釈論において積極的に評価される可能性があるという点です。わざわざ条文を改正したのは「権利にはそれぞれ制約の限度がある」という部分も否定するためだ。数年後にそのような説が出てくるかもしれない。そういったことを恐れています。


もちろん,『立憲主義においては,憲法は国民により制定されるものであるから,個人の尊厳が基本原理であることはどのような改正によっても変わらない。新憲法草案でも「個人の尊厳」が基本原理である。そうすると「思想良心の自由」の制約に限界はない,という説がとられることは考えられない。』のような考え方も可能です。そうすると「公益または公の秩序により制約されると書かれているけれども,思想良心の自由は大事だから,実は制約されないのだ。」という説が可能になり,主流となるでしょう。

残念ながら僕はそのような楽観主義にはたてませんでした。立憲主義の歴史をふまえると,制憲上は国家に対して性悪説に立たねばならないと考えています。ゆえに,『公益または公の秩序』への文言変更を許してはならない,と考えています。


ところで,「すずきかん」への投票は,単純な液体民主主義です。引っ越したので選挙区には投票権無いかなー,と思って何も考えてなくて,投票用紙をもらってあたまが真っ白になったのですが,りゅーくんさゆが「すずきかん」に投票するよう呼びかけていたのを思い出して,じゃあ液体民主主義を発動するか,として投票しました。

ひさしぶりに東京に行って,北千住で下りて,久しぶりに二郎(千住駅前店・小豚)にいって,南千住で投票して,帰宅しました。