みしょのねこごや

Diary - 2025年2月

疲弊している。台湾社会の地金が見えたような気分になった。

住んでいる部屋の契約更新の手続きを進めていたが,更新の三週間前になっていきなり,部屋を売りに出すから退去してくれ,契約更新はしない,と立ち退きを要求された。交渉の末,三ヶ月の間だけ契約を延長できることになったが,それが決まるまでの 5 日間は完全に滅入っていた。(というか今でもまだ滅入っている。)

今までは台湾社会に対してほとんど不満はなかったが,この件で一気に嫌いになった。というのも,台湾ではこのようなことはよくある話らしく,人々がそれを当たり前に思っているからだ。

日本には借地借家法の制限があり,賃貸物件の借主に対する保護が手厚い。過大だとも言われている。ところが台湾には同法26・28条のような制限がない。貸主は毎年,更新時に,自由に立ち退き・家賃増額を請求でき,借主は従うか引っ越すかするしかない。引っ越しにも手間とお金がかかるため,家財を人質に取られているようなものだ。(期間の定めのない賃貸の場合は一転して貸主が不利になる法制度だが,そんな貸主は現代ではいないだろう。)

どうして人々がこんな制度をそのままにしているのか,全く理解できない。中世に戻ったような,封建制 (feudalism) の時代にいるような気持ちになった。(正確には地主と小作人の関係なのだろうが。)

これまで,どうして 20 世紀初頭に共産主義がはびこったのかよくわかっていなかったが,ようやく腑に落ちた気がする。自由主義,資本主義,契約自由の原則はもちろん重要なのだけれど,それだけでは社会は立ちゆかない。とくに資本を持たない若者はこういう状況に陥るだろうから(というか現代の台湾でも陥っているのかもしれないが)自然と共産主義革命を指向するだろう。日本の制度はちょうど中庸の,よくできた制度に見える。

LGBT とか SDGs とか叫んでいる人が多いから忘れそうになるが,もともと台湾社会は国民党の思想に基づいて構築されている,ということの表象だろう。衛生観念が低い,道路が乱雑で交通が危険だ,爆竹がうるさい,などはそれほど気にならなかったが,今回の件は致命的だ。これから毎年この心配をしないといけないことを考えると,気力がもう長くは保たない気がした。

(研究がうまく進んでいないということも気が滅入っていることの一つの原因なのだが,これは仕方が無い。やっていることが僕の能力(可能な労働量)を超えている。高大接続を担当しているが,高校で何を学修したかも知らないところから始まり,とりあえずの手応えが得られるまでになった。Coding の授業もやっており,AI の時代になにを教えたらよいのか未だに手探りだ。その上で学生の指導をしなければならないが,個々の学生の特殊事情に対応しながら進めないといけない。というかそもそも台湾高等教育に(も)構造上の問題があって,どう「やっていく」のか悩ましい。海外で高等教育に携わっている人たちは何人も知っているが,みんなよくやっているものだ,と改めて感心する。何もわからない状況からなんとかここまで来たが,そろそろ限界っぽい。)