佐伯市論
丸一週間,実家のある大分県佐伯市に滞在していた。車で市内南部(とはいえ九州で最も広いので数時間かかる)を周ったり,市街地を歩いたり(二日で30kmぐらい歩いた)した。山にも登った。まるで斥候だ。
周辺部が荒廃しているのはもう仕方がないし,むしろ荒廃して compact city 化した方が強い時代なのだけれど,市街中心部が帰省するたびにひどいことになっていくのには毎回驚かされる。
結局,原因は単に motorization に対応できなかったというだけなのだ。市街中心部は古くからの狭い路地が多いので,motorization に対応した商業施設を作ることができない。歩行者を供給できる唯一の施設だった病院も移転してしまったので,道を歩くのは近所に住む老人しか居なくなった。購買力の高い 30 〜 50 代は,自宅の玄関・職場の駐車場・商業施設の駐車場でしか車から出ない。駐車場の小さな商業施設には人は来ない。
それでも飲み屋街はまだ良いのかなと思う。飲んだら歩くしかないからだ。希望的観測かもしれないけれど,景気の回復があれば,現在の飲み屋街は維持可能かも知れない。(しかし商業が荒廃する中で景気は回復するのか?佐伯は工業都市だからという期待もあるが,工場の集約化と海外進出という動向もある。)
Motorization が進展したのだから,motorization に適応した街を作れば良いじゃないか,と,理論的には思う。病院・介護施設とその駐車場と,大規模商業施設とその駐車場と,歩行者を対象とした商店群を接続すれば,と考える。実際に大分市などでは,これまでは駅と商店街(セントポルタ中央町など)と大規模商業施設(PARCO・FORUSなど)が一体となって駅前街を形成していたはずだ。
しかし民主主義ではそのような理想論は機能しない。特に地方部では,変化に対応できない老人(60歳以上)のみしか発言権を持たない(これが民主主義だ!)。さらに,同調圧力が強いので,革新的な人間は地方に残ることが出来ないだろう。いかなる変化からも取り残される。とにかく彼らは,変化せずに縮小均衡の中でゆっくりと衰退していく道を,いつも選択している。老人は年金で生活できているし,衰退する前に老人は死ぬので,全く問題ないのだ。
現在どうなっているか。
中心部の商店街は完全に荒廃し,老人向けの店しか残っていない。中心市街地から遠く離れたところに,トキハインダストリー(大規模商業施設)ができた。みんなそっちに行くようになった。高校生ですら,放課後に自転車でトキハにいく。
その後,佐伯に高速道路が開通した。大分市まで 1 時間となったので,今度はみんなそっちに流れた。中心市街地から IC へと向かう道路が整備され,その道沿いにコスモタウン(大規模商業施設群)が生まれた。中心部にあった病院もコスモタウンに移転したので,佐伯市全域 - コスモタウン - IC という流路が確立した。トキハインダストリーも客をごっそり奪われたので,縮小(撤退?)するのも時間の問題なのかもしれない。
ここで注意しなければならないことがある。コスモタウンにある店舗は,殆どが大分県外の大資本なのだ。地方の小資本には,開拓した土地に移転/新規出店するだけの体力は残っていない。結果として,地方の労働力と購買力が都会の大資本に吸収されるという構図になる。資本主義であるから富める者がなお富むのは仕方が無いのだけれど,それを全く利用できずに地元資本が敗退するのはもったいない。都会にある商業施設が進出することをもって「都会化」と言う向きもあるが,本当におめでたい話だ。ちゃんと調べたところ,大分3(うち佐伯1),その他九州6(うち福岡4),九州外13(うち東京5)だった。
余談だが,大分駅の周辺でも似たような状況が起きつつある。大分駅が高架化し,駅が高層商業施設になるらしい。そして高架化に伴い,旧来の商店街から改札までの距離が,かつてよりも非常に遠くなってしまった。かつての,駅 - 駅前商店街 - 駅前大規模商業施設,の連携が崩れ,駅ナカの店舗と駅前商店街とが隔絶することになった。そして駅の中には福岡資本の会社が多く入るらしい(伝聞)。(JR 九州が福岡資本だから,というのはうがち過ぎか。)駅ナカ〜駅前の人の流れがどうなるかはわからないが,駅には大きな駐車場があることと,電車通学の高校生にとっては改札の近くの方が都合が良いことから,おそらく駅ナカに人が集中するだろうと考えている。まぁ,PARCO の跡地に病院・介護施設が進出するらしいので,その辺の連携が進めば良いかなと思っている。
さて,中心がコスモタウンになってしまったのなら,開き直ってコスモタウン中心の街作りをすればよいのでは,と思う。しかしそうはいかないらしい。荒廃してしまった旧市街地に,再び大規模商業施設を建設して復活させる,という計画が浮かんでいる。大手前再開発事業というらしい。
理論的には非常に愚かなことに見える。旧市街地・トキハインダストリー・コスモタウン,というばらばらの場所をばらばらに開発してどうするのだろう。人口は減少しているのだから,どれかに集中したほうが住みやすくなる気がする。3 つも中心を作ってしまったら,2 つは荒廃し,残りの 1 つも中途半端なままだろう。
しかしどうやら,大手前再開発事業は遂行されることになりそうだ。おそらく土建業者のためであろう。コスモタウン周辺の開発が終了したので,次の開発場所をあたえなければ,土建業者(いまや地元資本の代表格となった!)は生きていけない。かつて公共事業として税金がばらまかれた時代があったが,あれを続けなければ佐伯市の資本は生き残れないのだろう。
僕はトキハインダストリーが出来て,大手前(旧市街中心)にあった壽屋が撤退したとき(高校1年頃?)に,これはもうダメだな,と感じた。将来も戻ってくるつもりはないから,完全な部外者である。もともと佐伯市に受け入れられなかった(受け入れられようのない)人間であり,佐伯の人々のことは嫌いだ。だから,佐伯市が荒廃する様子を,嘲り笑いながら生暖かく見守っている。
Comments
(Name) 2013/03/07(Thu) 16:34:33
東日本旅客鉄道株式会社 の「鉄」だけなぜか画像になっていますね。
みしょ 2013/03/07(Thu) 17:15:47
JR 各社は,金を失わないように,ということで「鉄=金失」(money-lost) ではなく「金矢」(money-arrow) を使ってるんです。