みしょのねこごや

Diary - 2012年12月

世の中はカネだという話,あるいは大学院で学んだこと。

この日記は就活したことない Advent Calendar 2012のために書かれました。昨日(20日)は @taki__taki__ さんが大学院生活で必要な skill についての話を書いてますね。明日は Junpei Komiyama さんが 就職したけど大学に戻ってきた話をするらしいです。いいですね。

とは言ったもの,以下の内容はいつかは書こうと思っていたものなので,別に Advent Calendar のためのものではない。。。。。まぁいいや。


ちょうど昨日博士論文を提出しました。審査会を無事通過できれば,来年から東京大学のKavli 数物連携宇宙研究機構で特任研究員として働きます。

5年間の大学院生活で学んだ最大のことは,カネが全てだということです。

この statement には二つの意味があります。まず第一に,給料のこと。つまり,終身雇用の職に就くまでの職を確保することが大事だということ。これは誰でも知っていると思います。でも,終身雇用を確保したら終わりか,というと,そうではなかった。たとえ永久就職できたとしても,研究費を確保できなければ研究はやっていけないということです。これを大学院で学びました。

うちの研究室は数年前はとてもお金が無くて,printer 用の紙が買えない。Color printer はお金がかかるからできるだけ使わないように。研究会に参加する場合も,修士課程の間は自腹,博士課程の場合は年10万円まで,という状況でした。特に紙がないのは致命的でした。(紙が無ければ博士論文が提出できない!)

ところが,最近おおきな研究費が国から貰えることになったらしく,状況が一変しました。白黒・color の printers (どっちも10年前の)を両方とも買い換えましたし,discussion の為の projector も設置しました。(便利です。)学生の旅費も全部払える財力があるので,研究会発表も気兼ねなく出来ます。研究用の computer が壊れたときも 2 日後に新しいのを買えました。そして,紙があるので博士論文が提出できました。

お金があると,研究会発表が出来るので業績が増えます。海外の研究者とも交流できるので,コネが広がって就職に有利です。高速な computer が買えるので,研究の内容もちょっと良くなります。つまり,業績とコネのために,カネが必要なのです。


そう考えると,カネを確保する乞食力というのは,研究者の必須 skill であるということになります。ちゃんと乞食できないと,教授になってもいろいろ大変そうです。

乞食力には,いくつかの要素があります。乞食を成功させるには,[1]この研究が重要であることと,[2]自分(たち)がこの研究を遂行できることを証明する必要があります。そのためには,(1a)重要な研究を思いつく。(1b)その重要さを魅力的な形で説明する。(2a)具体的な研究計画を立てる。(2b)業績などによって自分の優秀さを証明する。(2c)過去の業績と関連してるから自分ならできる!と主張する。(2d)審査員になりそうな人と顔見知りになっておく。などのことが必要です。

ちなみに,最後の「コネ」については,優秀な研究者であれば審査員はその名前を知っているはずであるのだから,審査員が知らないような研究者はそもそもダメだ,という意味だとか,研究者として活発に活動を行える(研究会発表・論文投稿・……)人なら自然とコネができる,とかいう意味があります。

ここまで具体的にすると,それぞれの skill というのは研究者として持っていて当然の skill なわけですから,そのためにそれぞれの skill を磨いていくとよいと思います。


どのようにして磨けばいいのでしょうか。(1a)重要な研究を思いつくためには,いつでも研究のことを考えている必要があります。そして,いろんな人と議論して考えを深めていくのが良いです。(1b)これは presentation 能力です。普通の社会人と同じ。発表練習をしましょう。学生のうちは指導教官などに見てもらって advice をもらいましょう。彼らは professional 乞食です。(2a)「具体的」ということを具体的に表現するのは難しいので,何が「具体的」なのか,学生のうちに指導教官から技を盗み取りましょう。(2b)がんばって研究しましょう。(2c)がんばりましょう。(2d)研究会にガンガン参加してどんどん発表を申し込んで飲み会で目立って晩餐会に参加して色んな人に自己紹介して握手しましょう。ただし,ただ単にノリの軽いだけの人だと思われないために,発表する業績がすばらしい必要があるし,発表自体もすばらしくなければなりせん。もちろん英語を喋れないのは論外です。

大学院というのは,これらの skill を磨く場なのでしょう。もちろん,人によって強い部分と弱い部分があるのですが,全部あるに越したことはないですね。そして,これらの skill は,研究者でない普通の社会人としても重要なものだ,ということは自明でしょう。


ということで,学振に応募しましょう。応募書類は数十回ぐらい書き直して(もちろん乞食の先達である指導教官に添削してもらって),面接になったら数十回ぐらい練習しましょう。Skill を磨くには実地訓練が一番です。そうすれば,自分にどの skill が欠けているのかもわかって,良いです。

そして受かればカネが貰えます。給料が貰えることも大事ですが,それよりも僕は computer が買え,研究会にも参加でき,人脈が広がったことの方が嬉しかったです。


僕は,DC1 を取れなければ博士課程を速やかに(就職が決まり次第)中退するつもりだった(学振なしで突っ込む勇気は無かった。今でも,学振なしで博士課程に進む人のことがよくわからない。)ので,面接で合格できて良かったし(100回ぐらい練習した+審査員が僕のことを知っていた),学振にはとても感謝しています。学振 PD にも無事に採用してもらえましたので,来年からも粛々と研究していきたいです。ほんとうにありがたい。