みしょのねこごや

Diary - 2017年9月

終わりを終わりと認識できることというのは案外少ないので,認識できる終わりを大切にするようにしている。

צל אביב の「いつもの」ラウンジ「だった」場所でこれを書いている。

空港の広告の文言がすべて理解できるようになって,3 年というのは長かったのだなと感じたのがついさっき。

いつものように手荷物を全部検査される。いつものように security には行列ができている。(しかも贖罪日から逃げる世俗人間のせいでいつもより多い。)

חיפה から空港に向かう taxi の中で,沈む直前の下弦がずっとついてきていた。彼は ירח であって月ではない,というのはなかなか理解してもらえないのでは無いか。「月の沙漠をはるばると」というやつだ。

ありとあらゆる最後を,最後の 90 分に詰め込んで,本当の最後の 30 分は大家の夫婦と過ごした。最後の料理は凄惨なものだったのであとで例のところに書く。

今日は時差ぼけのせいで早く目が覚めたので,手紙の下書きをして,(本当は昨日で全部終わらせるはずだったけどやり忘れていたことが 3 つもあったので=鍵を返し忘れた,など) טכניון に行きをやって,Italia 大使館に vista を受け取りに行き,甘えラーメンを避けた結果の最後の THE BUN でうどんと味噌クレマキャラメレを食べ,いつものだった חוף で פרי שייק とともに夕日が沈むのを見て,なぜか最後に新しい router の設定をして,荷物を詰めて,日本で買ってきた便箋に手紙を書いて,最後のもろもろをしていた。

よく考えたら月曜日は日本に居たはずで,というか先週末は新幹線に乗っていて,というか先週は木曜日まで台北に居たはずなんだけど,もう Italia に向かおうとしている。

1 ヶ月あまりしゃべっていなかった עברית も普通にしゃべれたし,よくがんばったんじゃないだろうか。

たとえば家の近所の丘には今回の(69 時間の)ישראל “生活”では行けなかったので,最後の丘,というのはいつのまにか過ぎていたことになる。

日常的に何度もやっていたことが突然断絶するのはこういう生き方の面白いところで,とりわけ最後の半年間というのは(3 年前に日本を発ったときも同じだったけれども)全てに対して緊張感を持って行動するようにしている。その結果として精神的に非常に不安定になっている。でもそれも含めての「良さ」なんだと思う。

その不安定さのせいでとりわけ人間関係をやっていくのは難しい時期なので,いろいろあった各位はそういうものなのだと諦めてもらいたい……。

莫大な労力を用いて終わらせたので,次はまた莫大な労力を用いて始めなければならない。Re: zero というアニメのことを思い出す。こんなに楽しい生き方は他にそうそう思いつかない。

Padova に着いてふと見ると地面に黄色い葉が落ちていた。見上げると木々がわりと黄色くなっていた。昨日は חוף で泳ぐ人々を眺めていたのに,昨日入った地中海は温かったのに。

空港から Padova に向かう autobus では疲れからぼーっとしてしまって降りるべきところで降り逃してしまった。こうなると疲れのせいで面白くなってきたので,記憶と掲示情報だけを頼りに Padova まで戻る遊びをした。結局それで 2 時間遅くなってしまった。楽しかったけど 55kg の荷物を持ってやる遊びではなかった。

ここからも地球の衛星は見ることが出来る。ここでは luna と言うらしいが,同じ上弦でも薄曇りの向こうに隠れてぼんやり。これは明らかに ירח ではない。

そういえば上弦に見覚えがあったのだけれど,調べたら 3 年前に日本から ישראל に移住したときも上弦だったので,そのときにおそらくどこかから上弦を見たのだろう。毎回深夜便で引っ越しをしているので,引っ越しは上弦と共にある。

飛行機の中では完全に熟睡していた。かろうじて תל-אביב を離陸するときには起きて外を眺めていたけれど,תל-אביב の夜景に思い入れはないし,離陸直後に一気に西に向かったので חיפה は見えないだろうとしてそのまま寝てしまった。Taxi から見た כרמל 山の街明かりだけで十分だった。

そして今日は新しい supermercato へ。朝ご飯用に牛乳と granola を買ってふと棚を見ると,石鹸と shampoo が目に入った。生活を始めるというのはこういうことだったなあ,と思い出して,新しい石鹸と shampoo を買った。石鹸はあまりにおいが気に入らなかった。

そういえば最後に חיפה のいつも行っていた שופרסל に行ったのはいつだったのだろう。「終わりを終わりと認識できる機会は多くない」とはこのことで,300 回以上行ったはずの場所にも突然行かなくなってしまう。そして新しい人生が始まる。