みしょのねこごや

Diary - 2022年7月

Bologna への出張が終わって,Budapest に戻ってきた。Slovenia から Magyarország に入ったときにちょっとホッとする,という不思議な感覚にも ישראל・Italia と続いた流氓生活のなかですっかり慣れてしまった。

ところでそんな生活もどうやらそろそろ終わるようで,来年から臺灣で tenure-track として働くことになった。形式的には少なくとも 8 年の雇用期間が確保されたので,だとすれば本郷での学生生活(7 年)を上回ることになる。日本からも相当に近くなるし,文字も同じだし,異邦という感じも相当薄れるんだろう。祖父が昔住んでいたところの近所らしい。

給料もだいぶ上がるので,物価高騰(と労働価値の低下)が進む現在においてはそこそこうれしいのだけど,もちろんそれは自由な研究員身分でなくなることとの交換なので当然のことだろう。それよりもうれしいのは雇用期間の長さで,自分好みの家具や仕事環境を確保できるようになることだ。これまでは 2 〜 3 年使ったら手放すことが前提だったのだけれど,5 年以上住むのなら自分好みにする甲斐があるだろう。もちろん本当に 5 年以上住むのか(住めるのか)は様々な要因に強く影響されるので予見できないのだけれど。

研究会で会った人たちには祝われたし,名目としては昇進なのだろうけれど,僕としてはむしろ転職に近い気持ちでいる。異国間転居を繰り返す生活では QOL が上がらないので,それを解決するために転職する,という位置づけだ。箱も無くなってしまった以上,流れに任せて適当に生きていて,その結果なんとなく転職が決まったので,これからもなんとなく暮らしていくんだろう。

そういうわけで Magyarország での生活も,というか欧州での生活もあと半年となったので,closing を始めなけれならない。前回 (Italia) は陸路での移動だったけれど今回は大移動なので,わりと大規模な総括になるんだろう。名目上は半年だけれど,その間に日本と ישראל に計 2 ヶ月ほど滞在するので,欧州にいるのは実はもうそう長くない。結局 Magyar は(語彙の獲得をサボったせいで)ほとんど喋れるようにならなかった。


とここまで(酒を飲みながら)書いてぼんやりと Twitter を眺めていたら,なにやら(学術研究職界隈における)雇用形態についての話が盛り上がっていた。まずは有期雇用と無期雇用を「任期あり・なし」と言い換えている時点で知性の欠如を感じるわけだけど,それ以前に,常識的な人間ならば 3 年でクビになる職になんて就職しないと思う。海外 postdoc は職というよりは生活様式みたいなもので,backpacker のような,移動型の放浪生活を送りたい人のための制度だと思う。僕も 8 年 backpacker をやってきたわけで,Budapest 生活は最高だけれども COVID のせいで移動も制限されているしそろそろ定住しようかな,という要素が大きい。

雇用形態として無期雇用を希望する,あるいは家族を養いたい,あるいは特定の国で働きたい人間は最初からそういう仕事をすればいいだけの話だし,そういう人間が精神を削って有期雇用職に就いているから業界の中に甘えが生じてしまって,彼らの労働価値が不当に買い叩かれているのだろう。(とはいえ素粒子物理の研究活動に労働価値があるのか,というは非自明で,僕がいくら論文を書いたところで本質的経済価値は生まれないわけだが……。)

例の箱の中に学位記を入れていたせいで,visa の申請に黄色信号が点っており最悪な気分となっている。抜歯したあとが痛むのも面倒……。(面倒ごとが多くなると,はいはい死ねば良いんやろ,みたいな気になりがち。)