みしょのねこごや

Diary - 2012年6月

JASRAC が『プロバイダ』に対して違法 upload を検知する system の導入を呼びかけたの話

著作権法の改正法案が成立して,違法 download が親告罪として刑事罰化されたのを切っ掛けに,Internet 上の無知な人々が無駄に煽動されている様子,とてもおぞましいですが,みなさん如何お過ごしでしょうか。

時間が無いのでメモ書き程度になってしまいますが,『プロバイダ』に対してUpload 時点で違法音楽ファイルを特定できる技術を,ISPに採用するよう呼びかける,との news 記事についての comment です。関連資料は以下の通り。

十分に賢い人は,この記事の日付に注目して下さい。陰謀論だとか mass media の怠慢だとか,いろいろ騒ぐべき/騒ぐと良いと思います。

以下の話はそうでない人,無知なのに騒いでる馬鹿な人たち向けです。要点は,ここでいう『プロバイダ』とは何かということです。すなわち,ここで『プロバイダ』とは,ISP のことではなく,掲示板運営者などの "contents provider" です。

まず,ISP (Internet Service Provider) というのは,Internet への接続をさせてくれる会社,つまり "Internet Service" のプロバイダです。

一方で,日本の法律,特に特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限)に於ける「プロバイダ(特定電気通信薬務提供者)」というのは,ISP だけでなく,YouTube やニコ動などの "contents provider" も含んだ概念です。

JASRAC などによる発表では,この ISP と "contents provider" が混同されて書かれています。特に

一方で,ここ数年,携帯向けの無料レンタル掲示板サービス事業者等,特定のISPのサービス上で違法音楽配信が顕著であることから,警察は多数の違法アップローダーを摘発してきました。その効果によって一部の無料レンタル掲示板サービス事業者は,自社のサービス上の違法行為の氾濫に危機感を募らせています。

という部分は明らかに誤解により書かれています。つまり So-net や biglobe などの ISP と,携帯向けの無料 rental 掲示板 service 事業者は明らかにベツモノなのに,これを混同しています。

朝日新聞の無知な記者も,この混同を鵜呑みにして,極めてわかりにくい/混乱するような記事を書いてしまいました。権利者団体が設立した「著作権情報集中処理機構(CDC)」が開発した違法ファイルを検知するプログラムを,プロバイダー側に導入するよう働きかける。という一文です。

実際に ISP に対して Fluzo を導入することは,言うまでもなく違憲(憲21[2])です。これについてはぷららの Winny 遮断が,総務省の見解において違憲とされた事例が参考になります。私企業による違憲行為が違法かどうかについての議論は省きますが,Internet が生活基盤となっている以上,違法であると捉えるべきでしょう。

こんな記事を書いてしまうのは,朝日新聞の人権意識の欠如の表れだと言えるでしょう。無知は人権を侵害します。


個人的な感想として,本件事例は問題ではないと考えています。これを回避するために,たとえば音楽の音程をびみょ~~に高くして upload したり,あるいは動画であれば上下反転させて投稿する,という技術が広まっているのはよく知られた話です。System による認識は完全じゃないので,違法 upload 各位は何としてでも頑張ってほしい。ところが,このような,誤解を招き,また通信の秘密が侵害される結果を招くおそれのある記事が mass media により mass に対して発表され,それに基づいてバカが騒ぐ,というのは,非常に危険な事態です。誤解した人たちは,無知を反省して下さい。誤解しなかった人たちは,上記記事の日付をもっと問題視していくとよいとおもいます。